死神と女神の狭間 第ニ章  

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 家の裏にあるヤチモモの木が、今日は二つ実をつけていた。
 アラウンの家には裏にちょっとした庭があり、そこには甘酸っぱくおいしいヤチモモの実がなる木が背を伸ばしている。二階からなら、そのヤチモモの実を室内から眺めることができた。真っ赤で丸い、大きな実。なる場所によっては窓からがんばって手を伸ばせば、実をつかめるかもしれない。
 朝を過ぎ、昼前になろうとするころ。二階の寝室にあるベッドでサンドラが目覚めたのを、アラウンはみつけた。
 薄目を開けて、上半身を起こしたまま動かない。アラウンは話しかけてみた。
「おはよう、サンドラ」
 できるだけやわらかい笑顔をつくり、彼はサンドラの表情を見た。彼女は不思議そうな顔をして
「どうしたの」
 と聞いてくる。まるで、昨日のことなどなんでもなかったかのように。
 それから何度か声をかけても、反応はいまひとつだった。どこかうわのそらで、半分以上アラウンの言葉を聞き流しているようにみえる。ただ、それだけといえばそれだけ。きっと疲れているのだろうと、アラウンはサンドラの心労を気遣った。
 しかし、一階でアラウンがつくった朝とも昼ともいえない食事をとろうとしたとき、サンドラの異常に、彼は気が付いた。
「……そうだ、レオとタウラスの分も、用意しないと」
 そうして皿を余分にもってこようとするのを、アラウンはとめた。サンドラが驚いた表情になる。
「……アラウン?」
「サンドラ」
 アラウンは強く、訴えるように云った。
「レオもタウラスもいないんだ。だから、皿を用意する必要はない。レオは殺されて、タウラスは連れ去られた。今は――」
「いや!」
 サンドラは耳をふさごうとする。その手を、アラウンはくいとめる。
「聞くんだ、サンドラ!今の現実を認めるんだ!そうしないと、ずっと現実から逃げ続けることになる!」
「聞きたくない!」
「しっかりしろ!もしタウラスが戻ってきても、お前がそんな調子だったらどうするんだ!兄を目の前で失ったタウラスのことも考えろ。いま、あの子がどんな気持ちでいるか――」
「タウラス……」
 サンドラの動きが止まる。視線が、宙をさまよう。
「そうだ。だからタウラスが戻ってくるまでに、君がちゃんとタウラスを受け止めてやれるようになっていないといけないんだ。お願いだ、サンドラ。気をしっかりもつんだ」
「タウラス……レオ……」
 つぶやき、サンドラはゆっくり首を振る。まだ昨日のショックが、尾を引いているようだった。
「レオ……レオは、殺されて……」
「そうだ。レオは、もういないんだ」
「レオは……盗賊の……黒髪の女に……」
「ああ、そうだな。黒髪の女に殺された。俺が昨日言った」
「黒髪の……女……」
 サンドラはすこしの間、視線を下げた。髪も服も乱れたままで。それがよりいっそう彼女をぐったりした様子にみせていた。
「……食事の後、服を着替えないとな」
「…………そう……そうね。私…………着替えないと」
 ここで、はじめて返事らしい返事が聞け、アラウンは胸をなでおろした。
 いつもは息子たちにきつくあたるサンドラ。だがもともと、サンドラの性格はそこまで気丈ではない。硬いがもろい、ガラスのような心。アラウンは長い付き合いでそのことをわかっていたが、いま改めて、崩れて立ち直れない彼女の心中を認識させられていた。
「……お昼から、外に出てもいいかしら」
「外に?」
「気分転換に……」そう云ってから、彼女が顔をわざとらしいくらいやわらかくするのを、アラウンはみとめた。
「そうだな。いいかもしれない。俺も付き添うよ」
「いいわ。一人で大丈夫……」
「そうか。それならいいが……」
 アラウンは、どうやら元気を取り戻しそうな妻をみて、とりあえずほっとした。ただ、目の前の食事を少しずつ口に運ぶサンドラの目は、どこかうつろなようにも見えた。





 ハーンらがヴェルタ村にやってきたのは、中天に日が昇って少したってからだった。彼はグレアムの森から堂々とした足取りでやってくると、まずヴェルタ村の前までダグラスを迎えにこさせた。彼の態度は完全に勝利者の風格で、ダグラスに「手土産として馬車一杯分の食料は用意しておけよ」だの「お前の女は美人か?なら、俺がもらってやってもいいぜ」だのと彼を辱めるような言動を頻繁にとった。ダグラスはそれにのることなく適当に返事を返し、どうやってこのごう慢な盗賊と相対するか、考えをつめていた。
 それとは別に、彼が気になっていた人物がもうひとりいた。
 ハーンは三人の仲間を連れていた。用心棒役二人に、遣い走りが一人。遣い走りというのはゴブのことで、用心棒役の一人はラスターだった――彼はケガをしていたのだが、他の者は彼よりさらに深手を負っていたか、実力的にはるかに劣る者ばかりだったのだ。
 そして、もう一人。用心棒役で連れられていたのが、あの黒髪の女・リースリングだった。
 ダグラスはその女を近くではかるようにながめていた。彼だけではない。村にいた鉄剣団の団員たちは、首領であるハーンよりも彼女の方に視線を集めていた。それは、彼女がレオの命を奪い、タウラスを人質に取った張本人だったこともあったが、それ以上に、盗賊たちの中で特に異彩を放つ彼女に、団員たちはある種の奇妙さと言い知れない恐怖を感じていたのだった。
 彼らはいつもの鉄剣団の集会所である村長の家の一室を、交渉の場として使った。室内には、机と椅子以外なにもよけいなものはおいていない。
 ヴェルタ村の方は、交渉にあたるダグラスと、三人の団員。後方に村長がひかえていた。アラウンは呼ばれていない。ハーンを前に、感情的になってはというダグラスの配慮からであった。デュデックも、グレアムの兄弟を裏切っているのでハーンを下手に怒らせてはいけないということから、この場にはいなかった。
 ハーンが長机についた椅子にどかっと腰を下ろす。横にゴブ、後ろにラスターとリースリング。
 机をまたいで正面にダグラスが座る。その斜め後ろに村長。周りに鉄剣団の団員三名。
 ハーンが彼らの方を眺める。その目が村長をとらえたとき、彼は口を開いた。
「なんでお前が前に出てくるんだ。村長が話すんじゃねえのか。」
 そう彼が云ったのを、ダグラスはふと疑問に思いながら、言葉を返した。
「村長はご高齢で、体を悪くされている。直接の交渉は俺がする」
 体を悪くして、というのは嘘だったが、このきつく張りつめた緊張の場に村長をおくのは心配だというのは、本当だった。
 そして、今度は彼の方から言葉をかけた。
「ところで――なぜお前は、この人が村長だとわかったんだ?」
「……そりゃ……」
 ハーンはすこし目をそらせ、口をもごもごさせてから答えた。
「そりゃ、この中で一番村長っぽいやつっていったら、そのジジイしかいねえじゃねえか。わざわざこんなところにそんなジジイをこさせてるんだったら、村長以外にねえだろ」
「そうか。なるほどな」思わしげにダグラスはハーンの方を見る。ハーンはそれを振り払うように声をあげた。
「んなことより、交渉だぜ、交渉。お前ら、あのガキにいくらくらい払うつもりなんだ。それを聞かせてもらおうじゃねえか」
 言いながら、ハーンは机を足にのせて腕を組み始める。周りの団員がいらだちをみせるが、ダグラスは彼のそんな不遜な態度にも眉を上げず、ゆっくりと告げた。
「……タウラスは、無事なのか。落ちたときに怪我をしたようだったが」
「ああ大丈夫大丈夫。まったく問題ねえ。いまごろぐっすりお休み中だろうさ。なあ、ゴブ?」
「へ、へえ。傷はそんなに深くありやせんでしたし……たぶん大丈夫でやす」
 このような場に慣れておらず、緊張で大量の汗をかきながら、ゴブが小さく返事をする。ハーンはダグラスに向き直った。
「あのガキなら心配するな。大事に大事に扱ってやるからよ。お前らがちゃんと『誠意』をみせてくれりゃ、の話だが」
 そう云って笑う盗賊の首領に、後ろで立っていた団員たちは憤慨して前に出ようとする。それを、ダグラスは制する。
(挑発に乗るな。あいつのペースに合わせていたらこっちが気疲れするだけだ。無視しろ)
 小声でさとされ、団員たちはまたおとなしく下がる。ダグラスは机に向かい。ハーンに云った。
「――こっちで用意できるのは、半年分の食糧、村が所有する金品の全て、それから政府の免罪状だ」
「免罪状?」
 ハーンが反応する。やはり食いついたかと、ダグラスはさらに続けた。
「サガンの政府が、お前らの存在を認めたという書状だ。これがあれば、お前らは森にいる限り警察局に捕まることはないし、サガンの方からお前らを捕えにくることもない。グレアムの森がお前らのものになるといっていい。どうだ」
 ダグラスはハーンの反応を待つ。戦力を大きく落としたいまのグレアムの兄弟にとって、免罪状はのどから手が出るほどほしいはずだ。彼らが一番恐れているのは国軍が手を回してくること。うわさが大きくなり国が動けば、彼らとて簡単にひねりつぶされる。だからこそ今回ヴェルタ村に攻め込んで、国軍にも対抗できるくらいの戦力をつけようと思ったのだろうと、ダグラスは考えていた。
 ダグラスの提示した条件に、しかしハーンは少しだけ考えるようなしぐさを示したが、すぐに――
「……くくくっ……くっくっくっ……ははは……」
 その表情を、笑いへと変えた。
「ははは。免罪状だってよ。それに半年分の食糧?村の所有する金品だってよ!ははは!おいおい、冗談もほどほどにしてほしいぜ」
 ハーンは口を押さえ、笑いをこらえようとする。その態度に、ダグラスは顔をしかめた。
「……それでは不満ということか」
「不満?お前ら、あのガキの命がそんなていどの価値しかねえと思ってんじゃねえだろうな!?」
 そういってハーンは口調を急変させ、机をけりつける。鉄剣団の団員たちがおののく。ダグラスは、低く落ち着いた調子で云った。
「……では、どのくらいなら満足するんだ?」
「この村の全ての家の食糧とあり金全部、それに女全員」
 さらっと云ってのけたハーンの要求に、ヴェルタ村の者たちはあぜんとした。
「それが用意できなけりゃ、あのガキは即刻殺す」
「いいかげんにしろ!そんな無茶な要求、飲めるわけないだろ!!」
 団員の一人が声を荒げる。その彼を、ハーンはまるでうじ虫でも見るかのような目で見やった。
「だめならそれでいいさ。あのガキを今夜始末するだけだ。いいんだぜ、こっちはそれでも。またグレアムの森に潜んで好き勝手やるだけさ。お前らには人質を救う理由があるが、こっちには守る理由はもうねえんだからよ」
 まるで身勝手な言い分に、団員も、村長でさえもおもわずため息をつかざるをえなかった。あまりに行き過ぎた条件。これが盗賊たちの考えることなのか。団員たちは絶望的な気分になるとともに、再び目の前の盗賊たちに対する怒りをこみあげさせた。
 ダグラスは、しかし冷静な頭で、そんな彼の要求にずっと考えをめぐらせていた。
 ハーンの目的は、いったいなんだ。この要求は、いくらなんでも限度を超えている。森の中で略奪を続けたいというだけなら、ヴェルタ村の占有がもう不可能な以上、免罪状で問題ないだろう。本当に効果があるか疑わしいただの紙切れには興味はないということか。本当に、ただ考えがないだけなのか。それとも、なにか別に狙いがあるのか――。
 ダグラスは口を開いた。
「ハーン。この町の財産を全て奪って、それを人数の少なくなったお前たちが全て抱え込むというのは、どうも違和感がある。昨日見たところ、お前たちは三十人ほどしか残っていなかった。その人数で、村の金品、それに女たちをすべてさらって持ち続けることができるのか?」
「そんなの、お前らには関係ねえことだろ」ハーンは云った。「オレがもっていくといや、もっていくんだ。方法はこっちで考えらあ。お前らはとにかくひざまずいて金目のものと女を差し出しゃそれでいいんだよ」
 ハーンが吐き捨てた。ダグラスはそれから何度か言葉をかけたが、ハーンは一切聞き入れる様子はなく、最初の条件を繰り返すのみ。
 ここは交渉という名の、一方的な命令の場になっていた。
 人質をとったことによる優勢を、存分にみせつけるハーン。話し合いは、完全な平行線のまま。
 ついにダグラスは、話を切り上げにかかった。
「わかった、ハーン。だが、それだけの要求だ。急に準備するのは難しい。もう一日待ってくれないか。こちらで考えさせてくれ」
 ダグラスが云うと、ハーンは机から足を下ろした。
「考える、か。いくらでも考えてもらう分にはかまわねえよ。だがあんまり長引くのも困るな……そうだ、一日延びるごとに、あのガキの手の指を一本ずつ切り落とすことにしよう」
「なんだと」
 ダグラスが立ち上がる。ハーンは薄ら笑いの顔を見せた。
「まてよ。明日からだ。明日までにお前らが条件を飲んで何もかも用意するなら、人質を無事に返してやる。それを躊躇(ちゅうちょ)してどんどん日にちを延ばすようなら人質の指を切っていく。いいな」
「……わかった」
「団長!」後ろから団員がつめ寄るが、ダグラスは再び椅子に座りながら諭した。
「お前らは何も言うな。――村長、それでよろしいか」
 すると、これまで一言も発しなかった老人は、ゆっくりとうなずきながら短く云った。
「……そうしよう」
 それを聞き、団員も気をおさめた。ハーンは村長の苦々しいような、無念そうな表情をそのしわだらけのまぶたに見てから、立ち上がった。
「よし、決まりだ。明日までに用意しろよ。でなきゃ、あの子供が元の姿で帰ってこられねえぜ。お前らにとって大事な子供なんだろ?せいぜいがんばって考えるんだな。ははははは」
 大きな笑い声を残し、ハーンが部屋を出て行く。おどおどした様子のゴブ、なぜかいらいらした様子のラスターが後からついていく。そして、リースリングが最後に――。
 彼らの後姿を見ながら、ダグラスはハーンをいますぐにたたきのめしたい衝動にかられた。鉄剣団の団員たちはみなそうに違いなく、自分にしてもそういう気持ちがないわけではなかった。
 しかし、人質はいまだ彼らの手中にある――。
「団長、このまま行かせていいんですか?いっそここで――」
 そう部下が進言するのも、ダグラスは感情では大賛成だったが、理性がそれをおさえた。
「だめだ。いまやったところでやぶへびだ。それにあの女がいる状況では、こちらにもいくら死者が出るかわからん。――俺だってやつらをこのままにはさせておきたくないさ。だが、いまは我慢するんだ」
 ダグラスは静かに、力強く云った。それは、半分自分にも言い聞かせるように。





 ハーンらが交渉した部屋から外に出ると、家の周りをヴェルタ村の住民が囲んでいたことがわかった。
 まだ女子供のほとんどは避難したままであったから村にいたのはまだ少数であったが、そのほぼ全ての人間が村長の家の周りに集まっていた。
「なんだこいつら、見物してやがったのか」
「み、みんな怖い顔してるでやんすよ」ゴブがおどおどしながら云った。「わしたち、襲われないでやすか……」
「手は出してないだろう。こっちには人質がいるんだ」ラスターがここにきてはじめて口を開いた。「とはいえ首領、長居はしねえほうがいいぜ」
「お前に言われなくてもわかってるって。さっさといくぞ」
 そうして、ハーン、ゴブ、ラスターが歩き、最後尾にリースリングが歩いていた。
 そのときだった。
 彼らの方へ突然、こぶし大の石が投げ込まれたのは。
 石の先には、リースリング。
「……!」
 彼女はとっさに左手で払う。石が、彼女の腕に当たって落ちる。
「なんだ?」
 ハーンらも気づく。そこへ、またもリースリングに向けて石が投げられる。それを今度はよける。
 彼女が石の投げられた方向を確かめる。その視線の先に――
 目を見開いて、気がふれたように白い顔をしたサンドラがいた。
「人殺し!」
 彼女は目の前の黒髪の女に向かって叫んだ。そして、足元の石を拾うとまた彼女に向かって石を投げつけようとする。
「よくも……よくもレオとタウラスを……あなたなんて……さっさと死んでしまえばいいのよ!!」
 そうして再び石を投げようとしたところで――
 サンドラの行為に気づいたアラウンが、後ろから羽交いじめにして止めた。
「やめろ、サンドラ!なにをしてるんだ!」
「離して!あの女が……レオを……レオを……!」
 必死に抵抗して彼女は叫ぶ。その目は、黒髪の女のアメジストの瞳を強くにらんでいた。
 それに対し、リースリングは――
 つかみどころのない深い紫色の目を、ただあわれむように、サンドラに向けるだけだった。
 サンドラはアラウンにつかまれたまま、その場にひざを折って泣き崩れた。そのまま、また気を失う。
「サンドラ……」
 周囲の者も手伝って、サンドラを助け起こす。その光景を、ハーンは苦笑しながらみていた。
「なんだ。後ろの男はたしかあのガキの父親だったよな。あの女は母親か。見苦しいねえ、こんなところで」
「首領。あの女、黙らせておかなくていいんですかい。なんなら俺が連れてきやすぜ」ラスターが今にも飛び出しそうになるが、ハーンは大きく首を横に振った。
「勘弁してくれ。あんなヒステリックな女、扱いに困るだけだ。ダグラスに村の女全てよこせといったが、あいつだけは外しておいてもらわねえとな。……リースリング、大丈夫か」
 ハーンが後ろのリースリングに聞くと、彼女は平然とした表情で「……大丈夫」と短く答えるだけだった。
 少しの混乱のあと、ハーンらは去っていった。ヴェルタ村の多くの人々の視線を受けながら。
 アラウンも彼らの方にひとしきり目を向けてから、サンドラを介抱した。そうしていると、彼女の涙にくれた顔をみつけ、また胸がしめつけられた。
 レオが死に、アラウンが人質に――。
 サンドラの心は、壊れかけている。いや、もう壊れている。
 限界かもしれない。
 異変を聞きつけ、ダグラスが走ってきた。アラウンはひととおり事情を説明すると、交渉の状況を尋ねた。ダグラスはやや暗い顔で、全く無茶な要求をしてきたハーンらのことを告げる。
 それを聞き、アラウンは「そうか」とだけ云い、サンドラを背負っていこうとした。
「こっちのことは大丈夫だ、ダグラス。心配かけたな」
「それならいいが……アラウン」
 ダグラスはアラウンの目をじっと見る。
「……なんだ、ダグラス。俺の顔になにかついているのか」
「アラウン……お前、妙な考えを起こすなよ」
「妙な考え?」
「お前、いつも自分で全て背負い込もうとするからな。なにかあれば、まず俺に相談しろ。いいか、わかったな」
「あ、ああ……そうだな。ありがとうダグラス」
 云って、アラウンはサンドラを背負い、去っていく。ダグラスはとりあえず安心して、今後の対応について村長らと相談しに戻った。
 だが――
 アラウンは、すでに堅く心に定めていた。
 ヴェルタ村に、少しだけここちよい風が吹く。もう十日もすれば、このヴェルタ村のヤチモモも収穫期に入る。それまでには、全てのことが決着しているはずだった。




 
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