死神と女神の狭間 第ニ章  

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 ヴェルタ村にデュデックが戻ってきたのは、ちょうどハーンがリースリングのテントから出たころだった。
 ハーンら一行が今日の泊まり場に到着してすぐ、彼はダグラスに伝達魔法によりメッセージを伝えてから、仲間の目を盗んで集団から脱出した。そしてグレアムの森を駆け抜け――彼も中年の身であったから始終走り続けるわけにはいかなかったので――夜になってようやくヴェルタ村のダグラスのところまでやってきたのだった。
 デュデックから前もって知らせを聞いていたダグラスは、すでに村中の鉄剣団員を集め、村長の家の一角にある集会所で緊急会議をおこなっているところだった。集会所はかなり広い部屋であったが、総員で百名近くになる団員が入ると、さすがにもう座る間もないほど手狭になった。しかしそんなことにはおかまいなく、デュデックが戻ってくると、どの団員も緊張と真剣さで身を固めながら、彼のもたらした深刻な内容の話を聞いた。夜半過ぎになって、そこには村長の顔も、そして二児の父親であるアラウンの姿ももちろんあった。
「――なるほど。つまりやつらは明日の晩、このヴェルタ村を襲ってくる。数はデュデックによると、百人と少し。こちらよりやや多いくらいの人数だ」
「そんなに多かったのか、『グレアムの兄弟』は」団員の一人が驚くと、ダグラスの横にいたデュデックが落ち着いた声で云った。
「まああわてるな。百人といっても、やつらは素性の知れないよせあつめ、烏合の衆だ。オレは近くでみていたからわかるが、戦いにはてんで素人なやつらばかりだった。このあいだのダム村のときも、だれもかれも勝手に村人を襲うだけで、作戦なんてものはありゃしない。襲うといったって、相手はいっちゃ悪いが老人ばかりだ。それでもそこいらから村人に逃げられ、金目のものも相当もっていかれていた。やつらはそれで満足しているが、相当下手なやり方なように俺にはみえた」
「ちょっとまてよ、デュデックはそのとき、グレアムの兄弟のやつらといっしょにダム村を襲ったのか?」
 別の団員が聞くと、デュデックは心外だと不満な顔を隠さなかった。
「襲うわけないだろう。一応やつらの仲間だという名目だったから襲うふりをして、こっそり村人のために逃げ道をつくってやってたんだ。だが、俺には正直そこまでしかできなかったよ。それ以上やっちゃ俺が怪しまれて、下手すりゃやつらに血祭りにあげられてたからな」
「ダム村には俺も何度か足を運んだんだが」と、ダグラスが横から云った。「もう若者が一人もいなかったし、もう少し森から離れた場所に移ってはどうか、という提案もしたんだ。ヴェルタ村への移住も含めて。だがあの人たちは動こうとしなかった。あの土地に愛着があるのか、それとも宗教的ななにかがあるのかわからなかったが、いまいちこちらの言葉に耳を傾けてはくれなかった。そして案の定、やつらに皆殺しの目にあった。残念だと思う」
 ダグラスが悔しさをあらわすように、顔をすこしうつむかせた。その場が少しだけ、重い空気になる。
 それを破ったのが、ダグラスのやや後方にいた、アラウンだった。
「たしかにダム村の人たちのことは残念だったが、その二の舞とならないよう、俺たちがここでがんばるべきじゃないかな。俺たちがもしここでやられれば、『グレアムの兄弟』は勢いづいて、このあたりの村の財産をあらいざらいかっさらっていくだろう。そうならないよう、ここで止めるんだ。俺たちの村だけじゃない。この辺の村全部の治安は、俺たちにかかってるんだ」
 アラウンがしっかりした声で云うと、ダグラスもいつもの調子で腕を組みながら大きくうなずいた。
「アラウンの言うとおりだ。俺たちがここでグレアムの兄弟に屈しては『鉄剣団』の名折れだ。俺たちは国の兵士や騎士たちと同じようにとはいかないが、村の自警団にしては行き過ぎるくらい、戦うための様々な技術と知恵を身に付けてきた。それに俺たちには、この村を守りたいという他のだれにも負けない思いがある。それさえあれば、寄せ集めのチンピラどもに腰が引けるなんてことはないはずだ。みんな、自信を持っていこう!」
 彼が言うと、『鉄剣団』の面々は口々に掛け声を上げた。彼らの顔をみるかぎり、臆しているものは一人もいないようにみえる。皆、怖くないわけではなかった。しかしそれを口に出せば、いっそう気が弱くなるだけだということに、だれもが気づいていた。
 彼らの通常の仕事は村の治安を守ることであり、村の中で起きるトラブルをうまく治めることであった。当然自分の仕事をもちながら、である。だからこのような外部への本格的な戦いはおろか、剣を握ることすら、彼らには滅多にないことだった。役割から言えば、本来これは国や市の兵隊の仕事であり、彼らがわざわざ命をかける必要はない。しかし、実情は軍隊がこのような地方の一山村にまで手厚く保護してくれることなどなく、さらに戦争が激しくなっている昨今では軍隊などというものに期待をかけることのほうこそが間違いなのであった。自分たちの身は自分たちで守る。その姿勢がなければ、いつ自分の住んでいる家が野党に襲われてもおかしくはない。これが現在のサガンという国の実情なのだった。
 彼らにとってはこれが二度目の「緊急出動」だった。一回目はハーンの話にもあったとおり、ヴェルタ村にやってきた四・五人程度の盗賊をつかまえたときのことだった。しかしハーンの言うような『自警団があったのもやつら盗賊は知らなかった』ということはなく、彼らはそれなりに情報を集めた上で、めぼしい家をしぼりこんで忍び込んでいた。だがそれでも、その家に彼らが侵入しようとしたところで村内を見回っていた『鉄剣団』に発見され、あっさりつかまってしまったのだった。
 はためにはあっけない結末のようにみえるが、これは『鉄剣団』が日夜油断なく村内を巡回し、盗賊を発見した際も彼らに力負けせずに少人数で太刀打ちできたからこそ、全員を捕らえることができたのだった。いわば、自警団としての『鉄剣団』の質の高さを他の地域にも証明した事件といってよかった。
 ゆえに、彼らはこのサガンの国の端にあるグレアムの森周辺の村々の中では、それどころかそこそこ大きな町を含めたこの辺り一帯の地域全ての中でも一・二を争うほど優秀な自警団であることは、間違いなかった。うわさどおりの力を、彼らは確かに備えていたのである。
 といって、やはり盗賊団との「戦争」ともなると、話は別なのだった。
 彼らは一端解散し、主だったものたちだけが残って、『グレアムの兄弟』への対抗策を話し合った。しかし話し合うといって、その対抗策というものに自信をもって意見を出すものは、ダグラス以外にはいないのだった。人と人との殺し合いになる戦闘をまともに経験したことがあるのはこの村でダグラスだけだったし、人を斬ったことがあるのも、ダグラスほかごく少数の人間だけだった。
「正直、もうこれはダグラス任せだぜ。頼むよ、団長」デュデックはひきつった笑みをうかべ、ダグラスをながめた。
「おいおい、これは俺たち全員の戦いだ。俺の一存だけで決めるつもりなんてないさ」
「だがなあ、実際俺たちにはどうやってやつらに対したらいいのか、シロウトなもんだからよくわからないんだよ。やつらは烏合の衆だ、なんてさっきは言っちまったが、こっちは人を斬ったこともない素人集団だ。それが戦闘に影響しないか、心配でならん」
「要は思いさ」ダグラスは少し笑みを見せながら、しかし真剣な顔で云った。
「妻を守りたい。子供を守りたい。村の人間を守りたい。この思いが人を斬ることへの戸惑いより強ければ、人を斬ったことがあるかないかなんて関係ない。だれだって人は殺したくないさ。でもそうすればこっちが逆に殺される、家族が殺される、村がやつらに蹂躙(じゅうりん)される。そうなりたくないのなら、やることは決まってるだろう?」
「そうはいうがな」根が悲観主義者であったデュデックは、なおも不安そうな顔をしながら云った。「具体的にどうするんだ?まあ、やつらには策なんてものはなさそうだから、こっちがどう構えるか、だけが問題になると思うが」
 ダグラスは答えた。
「俺は、森での待ち伏せが有効だと思う。団員の三分の一ほどの人数をさいて、森の入り口あたりの木の上に吹き矢をもって潜ませる。あのへんは葉を多く付けるヨシャブシの木が多いから、夜中であれば潜むのはわりあい簡単だ。残りの団員は二手に分かれ、ひとつはオニイバラの茂みの裏で、ひとつは森の少し奥にある斜面の下で待機する。そしてやつらが森から出る直前、合図とともに一斉に吹き矢を射かける。やつらが混乱したところで、森の外の茂みに待機していた他の団員が正面から突っ込み、斜面にいた団員は後ろから突っ込む。挟み撃ちだ。この人数なら、やつらが体制を立て直すまでにもう決着はついていると俺は読むが、どうだ」
 ダグラスの計画に、その場にいた五人の団員と村長はうなずいた。
「吹き矢か。なるほど、それは思いつかなんだ」村長は感心したように特に大仰に首を振る。彼とても長い人生の中で、このような危機は経験したことがないのだろう。団員たちは思った。
「なら、木の上にのぼるのはあまり剣が得意じゃない者がいいな」
 云ったのは、アラウンだった。彼も極めて真面目な顔つきで、ダグラスの計画を興味深く聞き入っていた。
「直接、盗賊たちと相対するのは、少しでも腕の立つやつがいいだろう。ダグラスは正面から統率するんだな?なら、俺は後ろからやつらの背後をつくやつらをまとめる」
「あせるなよ、アラウン」ダグラスは云った。「お前は愛妻家で、子煩悩だからな。いくら家族が大事でも、自分が命を落とすようじゃ、なんにもならんからな」
「わかってる、もちろんだ」そう、アラウンは力強く云った。「やつらに負けはしないさ。俺だって、いくらか剣には自信があるんだ」
「だけどな、ここで問題がひとつある」
 そう口を開いたのは、デュデックだった。彼は神妙な顔で、その場にいた団員をそれぞれながめてから、云った。
「やつらは基本的にはただのチンピラ、統制の取れていないいい加減な戦い方しか知らないやつらなんだが、腕が確かなやつがいくらかいてな」
「ハーンか?」ダグラスの眉が少しつりあがった。デュデックは答える。
「やつも、たしかに多少腕は立ちそうだ。でもあれだけの人数をひっぱるだけの実力は、あいつにはない、というのが俺の評価だ。ダグラス、お前なら確実に勝てる」
「じゃあそれより手ごわいやつがいるのか」云ったのは、アラウンだった。「そういえば、『グレアムの兄弟』にはかなり大柄な体の男がいる、というのを聞いたことがあるが」
「ああ。名前はラスター。そいつが大本命だ。つい二日前までは、な」
「二日前まで?」
 デュデックは、少し苦い顔でうなずいた。そして『グレアムの兄弟』の宿営地に突然現れた訪問者・リースリングのことを、一部始終話した。
 彼女がラスターを当分全力で戦えない状態に陥れたこと、昨日から彼らに同行するようになったこと、など。団員たちは彼の口から出る奇妙な成り行きを聞き、曇った表情になった。
「――それは本当の話か?なら、いま一番やつらの中で手ごわそうなのは、その女だ、と?」
 アラウンが到底信じられないといった顔でいうと、デュデックは強く云った。
「ああ。俺の目が正しけりゃ、な。とにかく、ラスターには問題なく勝ったのは事実だ。ハーンの実力は知らないが、たぶんそのリースリングという女が、あのチンピラたちの中で一番手を焼くことになると思う。それに――」
 すこし云おうかどうか迷うように言葉を濁してから、彼は云った。
「なんというか、あの女の態度とか、振る舞いが、なんとなく普通じゃないような気がしてる。俺はむしろ、そっちのほうが気がかりなんだ」
「振る舞い?」アラウンが聞く。ダグラスは腕を組み、黙ったままやや目を伏せている。
「リースリングという女、素人目でみても感じる。四六時中落ち着いていて、余計なことはしゃべらない。無駄なことはしない。あれは――プロだ」
「プロ?なんの」
「殺人の、か」デュデックが答える代わりに、ダグラスが口を開いた。
「殺人の――殺し屋か?女なのに?」
 アラウンが聞くと、ダグラスは少し考えるようにしてから、デュデックの方をみた。
「目的はなんだ。なぜその女は『グレアムの兄弟』に?」
「よくわからん。なんだったかな、赤色――ちがう、青色――だったか。いかんな、歳をとると物忘れがひどくなる。まあ、そのなんとかというやつを捜している、ということを最初言っていた。ハーンはどうやらその人物がだれなのか知っているみたいで、その情報と交換でやつらと同行することを承諾したみたいだ」
 それを聞いて、団員も、村長も、一様にうなるように黙った。特に村長は、心配さを前面に出すようにやや眉をひそめた表情をみせた。
「村長。念のため、村長のところの子供さんたちはこのあとすぐに隣町へ避難させておいてください」
 ダグラスは気遣うように村長の方をみた。彼はゆっくりとうなずきつつ、しわがれた声で云った。
「うむ、そうしよう。村の女子供も全員避難させたほうがいいじゃろう。そっちの方はわしが引き受けよう」
「助かります」ダグラスはやや頭をさげたが、村長はそれを手でとどめた。
「いや、わしにできることはこれぐらいしかないからの。こちらのことは気にせず、グレアムの兄弟への対応に全力をそそいでくれ」
 老人がすこし和やかな顔になる。子供好きな村長には適任だ。そう、ダグラスもアラウンも思った。
 ――そのとき。
 バサッ、と。
 集会所の窓の外から、草のすれる音がした。
「――いま、なにか聞こえなかったか?」
 アラウンがいい終わる前に、ダグラスは立ち上がった。
 窓のほうへむかい、観音開きのそれを勢いよくひらく。辺りを見回す。
 ……だが、そこにはだれもいる気配はなかった。
 音がしてから彼が窓を開けるまではそんなに時間がかかっていない。だれかが逃げたなら、そのうしろ姿くらいはみえそうなものだったが――。
「風が強いな。たぶん、木の枝か何かが折れたんだろう」
 ひととおり確かめてから、彼は窓を閉じた。
 全員の顔に見えていた緊張が、ややほぐれる。ダグラスは席に座ってから、よく通る声で云った。
「そうだな――女への対策は、俺が考えておくよ。とにかく、次の晩が決戦だ。いまこそ、俺たち鉄剣団の真価が問われるときといっていいだろう。この危機、全員で力をあわせて必ず乗り越えよう!」





 ダグラスが窓をひらいたとき、二人の少年は、もはやこれまでかと心臓がとまるほど驚いていた。
 ダグラスたちが話し合いを終えて集会所から出て行くらしい様子をみて、レオ――アラウンのいたずら好きな長男――は、大げさなほどにその小さな体に精一杯息を吸い込み、そしてはいた。
「……あぶなかったあー。おじさんにみられてたら、俺たちどんな目にあうかわからなかったな。タウラス、大丈夫か」
 彼の隣にいた弟のタウラスは、若干青ざめた状態から何とか立ち直りつつ、兄のほうをみた。
「だ、大丈夫……びっくりした」
「だよな。ちょっと草に手がひっかかっただけで気づかれるなんて、思わなかった」
 彼らは再度、いきをつく。今度はだいぶ落ち着いていた。
 彼らは窓枠の真下、ちょうど窓から外を眺めると死角になるようなところに体をちぢこまらせていた。この窓はだいぶ縦に長いものがとりつけられており、地面から窓枠までが大人のひざほどしかない。ダグラスも、というよりだれでも、だから真下にはだれも隠れられないと思うのが普通だった。小さい子供ででもなければ。
 そういうわけで、彼らは『尊敬する鉄剣団の秘密の集会を興味本位で盗み聞きしていたのが父やダグラスおじさんにばれ、大目玉を食らう』という危機をなんとか乗り越えていた。
 父が、鉄剣団の急な集会がある、と言って家を出たのを、この二人の幼い少年たちはきちんとみていた。彼らはもう夜遅い時間で、母に寝かしつけられるところだったのだが、レオはこの父のただならぬ様子をみて、集会をみてみたいという好奇心をわきたたせてしまったのである。
 ためしに母にたのんでみたが、やはりというか、予想通り「なにバカなこと言ってるの。お父さんは遊びにいくんじゃないのよ。さ、もう遅いんだからさっさと寝なさい」といわれ、子供部屋にタウラスもろとも強制収監されてしまったのである。
 それならと、レオはタウラスを誘い、子供部屋の隅に積んだ様々な雑品をどけて、そこに秘密につくっている裏口から家の外へ抜け出した。鉄剣団が集まる場所は村の集会所だと事前にアラウンがしゃべっていたので、二人は急いで、でもできるだけ人目にはつかないよう、集会所までやってきたのだった。
 一部始終を聞いた二人は、しばらく集会所の窓のところにとどまっていた。
「……ねえ、もう終わったし、はやく帰ろうよ」
 母に家を抜け出したのがばれないか不安なタウラスが兄のすそをひっぱりながら云うと、なにやらまたよからぬことを思いついたらしいレオは、にんまりと笑みをつくった。
「なあ、タウラス。オレ、おもしろいこと考えた」
「おもしろいこと?」
「そう。何だと思う?」
 レオが得意そうな顔をして弟の返答を待ったが、タウラスは戸惑うだけだった。
「しらないよ、そんなの……。なにするの?」
 タウラスが小さな声で云うと、レオはとっておきのものをみせびらかすように満面の笑みをつくって云い放った。
「オレたちも鉄剣団の戦いに参加して、盗賊団のやつらをやっつけるんだ!」
 一瞬、なにを云われたのかわからずに、タウラスはほうけた顔をした。
「……え、どういうこと?」
「ったく、にぶいなあ、タウラスは」レオは弟に語った。「オレたちも、鉄剣団といっしょに盗賊団のやつらがやってくるところに行って、やつらをやっつけるんだ」
「で、でも、僕たちがついていったら父さんとか、ダグラスおじさんとかに怒られるし……」
「当たり前だろ。だからばれないように、離れたところからついていくんだ」
「でも、どうやって盗賊をやっつけるの?僕たちなにももってないし……」
「ダグラスおじさんが言ってただろ。吹き矢を使うんだ。吹き矢だったらオレたちも、鉄剣団の家から『もらって』きておじさんとか鉄剣団の人たちの真似して練習しただろ。結局母ちゃんにみつかって取り上げられたけど……。だから鉄剣団の人たちが明日の準備をするときに、どこかから吹き矢をもらってくるんだ。そうすれば、オレたちにも――」
「でも、でもっ、危ないよ、絶対!みんな、剣とかもってきりあうんでしょ?僕たちがそんなところにいたら……」
「大丈夫だって。ヨシャブシの木の上にいたら絶対みつからないから。いままであの木の上にのぼってだれにも見つかったことないだろ?見つかりっこないって。それにオレたちが盗賊をやっつけたら、みんなびっくりするぞ。すごいな、レオ、タウラス。よくやった!って。そしたらオレたち、鉄剣団に入れるかもしれないんだぞ」
「鉄剣団に――」
 そういわれてはじめて、タウラスは少しだけ兄の話に興味を向けた。
「ほんとに?鉄剣団に入れるの?」
「入れるって、絶対!父ちゃんやダグラスおじさんといっしょに盗賊をやっつけたんだから!」
 もう盗賊を吹き矢でやっつけたのが既成事実のようにレオは話し始めた。父ちゃんにほめられるぞ。ダグラスおじさんに認められるぞ。もしかしたら母ちゃんがヤチモモをいつもの二倍くれるかも――。レオにたがわず鉄剣団に強いあこがれをもっていたタウラスは、その兄の話に聞き入った。
「な、だからタウラスもやるだろ。これを逃したら、もう次いつできるか分からないぞ」
「……うん、わかった」
 そしてついにタウラスもうなづき、レオは意気揚々とした。
 鉄剣団の集会所を離れ、とりあえず自分たちの家へ戻ってから、彼らは戦いに侵入するための手はずを相談した。もう彼らには夜遅い時間だったが、それさえも二人は非日常に特有の緊張感と期待感に変えていた。
 日が変わるころ、ようやく二人の兄弟は寝静まった。だが、レオは鉄剣団で活躍する自分たちの姿を想像し、タウラスはうまく盗賊をやっつけられるかどうか心配して、二人ともなかなか眠れなかった。




 
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